理学療法士が解説!脳卒中の後遺症 ~片麻痺歩行の特徴と歩行能力の低下を防ぐトレーニングとは?~
目次
こんにちは。スリーウエルネス理学療法士の末廣です。
理学療法士の仕事をしていると、脳卒中の患者さんのリハビリをおこなう機会が多くあります。
脳卒中の後遺症は、その後の生活に大きな影響を及ぼします。片麻痺(かたまひ)もその中の一つ。脳の損傷部位によって左右の半身どちらかに運動麻痺を生じるのが片麻痺です。日常生活に大きく影響を与える片麻痺ですが、日常生活の中でも特に『歩行』に大きな影響を及ぼします。
入院期間中にリハビリを頑張り、ある程度安定した歩行ができていても、退院後の環境変化や運動量の減少から「足が上がらなくなった」といった声をよく聞きます。
今回のブログでは片麻痺が歩行にどのような影響を及ぼすのか、自宅でできるアプローチやおススメの運動を紹介します。脳卒中の一般的な症状や予防については、こちらのブログに詳しく書いているので、ぜひご覧くださいね。
脳卒中の後遺症とは?
脳卒中とは、脳梗塞(のうこうそく)や脳出血など、脳の血管が詰まったり、破れることで脳の細胞に栄養が届かなくなり、脳細胞や神経が損傷を受ける病気です。脳そのものではなく、血管の病変であるため「脳血管障害」と言われることもあります。
脳卒中による後遺症は脳の損傷部位によって異なるため、人によって症状も重症度も様々です。手足が思うように動かすことができない場合や全く力が入らなくなる「片麻痺」、手足の位置・角度や触った感じ、暑さや冷たさが分かりにくくなる「感覚障害」、認知の面で問題となる「高次脳機能障害」などが脳卒中の後遺症ではよく見られます。全ての症状がその後の生活に大きな影響を与えます。
片麻痺が引き起こす問題点とは?
片麻痺が起こると、自分が思う通りに体が動かせなくなるため、歩行など人が生きていく上での基本動作において、大きな問題点となります。退院後の生活でも、片麻痺の症状がある方が安定した歩行を行うためには、継続したトレーニングが必要となります。
片麻痺を詳しく見てみよう
片麻痺は、損傷した脳の反対側の半身が思ったように動かせなくなる症状です。麻痺の状態は、損傷した脳の部位や程度また個人差によっても異なります。
脳血管障害が起こると脳に損傷を受けますが、損傷を受けた脳と反対側の半身の筋肉の弱化したり異常な筋収縮を引き起こすことがあります。これが片麻痺です。 発症初期や後遺症の症状が重い方にみられるのが「弛緩性(しかんせい)麻痺」です。動かそうとしても筋肉に力が入らず麻痺側がダランとした状態が弛緩性麻痺に当たります。
弛緩性麻痺とは逆に、筋肉に異常な緊張がおこるのが「痙性(けいせい)麻痺」です。力が入っているから弛緩性麻痺よりは良いように思われますが、一概にそうとも言えません。自分でコントロールできないほど収縮してしまうため、痙性が強くなると体を思うように動かすのが難しくなってしまいます。
程度によっては動かせなくて関節が固まってしまう、同じ姿勢が続き、圧迫された箇所が傷ついてしまう、身体を洗いにくく清潔を保ちにくいなどの問題が発生します。
痙性麻痺でみられる筋緊張のパターン
本来、全身の筋肉は関節の動きに合わせてバランスをとって伸び縮みし、力を発揮します。 「痙性(けいせい)麻痺」の状態になると特定の筋肉がずっと緊張し関節を適切に動かしたり力を発揮することができなくなります。
肘が曲がったまま歩いている方は脳卒中後遺症の痙性麻痺により、肘を曲げる筋肉が常に収縮し、肘を伸ばすことができなくなったいるために起こっていることが考えられます。
このように痙性によって特定の筋肉が収縮しすぎたり、働かなかったりすることが原因で姿勢が正常に保てなくなるのも片麻痺の特徴です。痙性により異常姿勢になりやすい例を各関節ごとにわけるとこのようになります。
(肩関節)
脇が閉じる(肩関節内転、内旋位)
(肘関節)
曲がる(肘関節屈曲位)
(手首)
曲がる(手関節掌屈位)
(手指)
握りこむ(てのひらの向きのコントロールが難しい、指が曲がりやすい方も見られます。)
(股関節)
前へ曲がり伸ばしにくくなる(屈曲)
(膝関節)
伸び切ってしまう(過伸展、曲げ伸ばしがスムーズにコントロールできない)
※反対に曲がった角度のまま筋肉が緊張して動かしにくいこともあります。
(足首、足部)
つま先立ちのように足首が伸び、内側へ返る(尖足(せんそく)や内反尖足(ないはんせんそく))
足の人差し指が伸び切る。
足の指を過剰に握りこんでしまう
片麻痺の症状があると、筋肉の収縮を適切にコントロールできない状態で歩行することになるため、発症前と同じように歩くというのは難しくなります。
片麻痺がある方の歩行について
片麻痺がある方に出やすい歩行の特徴があります。
① 麻痺側の足が上がりにくく、つま先が引っ掛かりやすい
② 一歩の大きさに左右差がある
③ 足先が上手く上がらず内側へ反る
④ 麻痺側の膝が伸び切って固定してしまう
⑤ 麻痺側を外側へ回すように前へ出す
⑥ 歩くスピードが依然と比べると遅くなる
これらの歩行の特徴を放置し、習慣化してしまったがために、痙性が強くなり、スムーズに歩きにくくなってしまったという方も多くいます。麻痺の程度に合わせて、なるべく力みなく歩行できることがひとつの目標です。
「前より歩きやすくなった」「しゃべりながらでもつまずくことが減った」など、継続したトレーニングで症状が緩和する可能性は大いにあります。大切なのは長期間の継続と、適切な運動量です。毎日あたりまえのことになるようにトレーニングを続けるのが理想です。
おすすめトレーニング
全ての運動に共通することですが、転倒やふらつく危険があるときは中止しましょう。壁や机など支えになる安定したものが近くにある状態で行ってください。または見守りや手を支えてもらうのも良いでしょう。安全性に十分注意して行ってください。
お尻上げ(ヒップリフト)
ベッドで上向きに寝て、お尻を真上に上げる動作です。
① 手をお腹の上に置く(手の力でお尻をあげるのをふせぐため)
② 体とおしり、太ももがなるべく一直線になるように上げる
③ ゆっくりと下ろす(ドスンと下ろさない)
【ポイント】
- 初めは10回ずつゆっくり丁寧に行ってください。
- 慣れてきたら、一日2セットずつ行うなど徐々に回数を増やすと良いでしょう。
- 足の裏がしっかり地面に接地するよう注意します。
- 物足りない方は、片脚ずつおこなうと負荷の多い運動になります。
- 膝関節が90°くらい曲がっていること、足の裏がしっかり地面につくように意識してください。
誰かにチェックしてもらったり、横に鏡があると良いでしょう。
麻痺側への重心移動トレーニング、ステッピング
麻痺のある足を前や外側に踏み出して体重を乗せます。
【ポイント】
- ゆっくり安全に気を付けて10~15回、疲れすぎないペースで行いましょう。
- なるべく足先はまっすぐ~15°くらいで接地します。
- 膝がつま先より前に出ないように気を付けます!
膝の曲げ伸ばしのトレーニング(スクワット)
【ポイント】
- ゆっくりと、膝が急に伸び切らないように注意しましょう。
- 10回×1セットから始め、慣れてくれは回数やセット数を増やしましょう。
先ほども書きましたが、すべての運動は転倒の危険性のないように手すりを持って行ったり、壁沿いで実施するなど、安全に十分配慮して行ってください。
まとめ
片麻痺の改善には長期にわたる専門的なアプローチが必要です。自立歩行が可能な方も、痙性の特徴や注意点、自分自身の状態を正しく理解していると運動の効果や予後も変わります。誰かに相談したり、時には休憩もしながら、継続的なトレーニングを気長に続けていきましょう。
スリーウエルネスでは医療国家資格(理学療法士)を持ったトレーナーがマンツーマンで対応します。入院していた頃に比べて歩きづらさを感じる方、もっとスムーズに歩けるようになりたい方など、ぜひ一度ご相談ください。
スリーウエルネス理学療法士 末廣
【参考文献】
根本明宣著JpnJRehabilMed2020;57:1069-1076
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/57/11/57_57.1069/_pdf
潮見太蔵齋藤明彦訳:脳卒中の運動療法.医学書院.東京.2004
後藤淳著:筋緊張のコントロール.関西理学.3:21-31.2003
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkpt/3/0/3_0_21/_pdf