マラソンで最後まで走りきるための食事法「グリコーゲンローディング」とは?
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こんにちは、スリーウエルネス健康運動指導士の尾嶋です。
10月下旬から11月下旬は秋から冬への移行期間。夏のように暑すぎず、熱中症になる危険も少なく、冬のように寒すぎず、身体が冷え、筋肉が動きづらいということも少ないため、スポーツをするのに最適な季節です。そこで今回は、マラソンなどの長時間続くスポーツや運動に必要なエネルギーを体内に蓄えるための食事法『グリコーゲンローディング)について解説します。
長時間続くスポーツに必要な『エネルギー』
マラソンなどの長時間続くスポーツに必要なものの一つが『エネルギー』です。すべての運動は筋肉が収縮して行われますが、そのエネルギー源となるのが、『ATP(アデノシン三リン酸)』という物質です。このATPはからだの中に限られた量しか存在せず、ダッシュのような瞬発的な運動では数秒間続けるとなくなってします。しかし、からだにはATPがなくなっても酸素を利用してATPを再生するシステムが備わっています。
食事で摂った炭水化物(糖質)や脂質、体内に貯蔵しておいたグリコーゲン(糖質)や体脂肪を酸化させながら、ATPを再生し、エネルギーを供給し続けることができるのです。このように、糖質と脂質は、どちらもエネルギー源になりますが、グリコーゲン(糖質)を筋肉内に貯め込むことで、持久力が高まることが分かっています。
グリコーゲンをからだに貯め込む食事法に「グリコーゲンローディング」という方法があります。詳しくは後ほど解説しますが、持久力に優れたアスリートは、一般人より多くのグリコーゲンを筋肉に蓄えており、このことがマラソンなどのタイムにも関わってきます。
グリコーゲンローディングとは?
マラソンレースの際、後半に急に体が重くなって失速した経験はありませんか?経験があるという方は、もしかしたら事前のエネルギー補充が十分でなかったのかもしれません。
米やパンやパスタなどに含まれる糖質にはデンプン・砂糖・乳糖などの種類があり、体内に消化吸収されたのち、体内で「グルコース」という糖質に分解・変換されます。燃焼すると1gあたり4Kcalのエネルギーとなるのですが、すぐに燃焼されない場合は、「グリコーゲン」といういくつもの「グルコース」が繋がった物質として貯蔵されます。「グリコーゲン」は体内では主に肝臓と筋肉に貯蔵されており、血糖値の維持に利用されたり、運動時には「グルコース」に分解されてエネルギーとして消費されます。「グリコーゲン」はからだにとっていわば「ガソリン」のような存在なので、運動中にこの「グリコーゲン」が不足するとスタミナ切れをおこし、からだがどんどん重たくなってきます。
つまり、マラソン レース終盤のスタミナのカギを握るのは体内のグリコーゲン(糖質)です。そこで生み出されたのが「グリコーゲンローディング」と呼ばれる特別な食事法です。レース前に、ごはんやパスタなどの炭水化物(糖質)中心の食事と運動量の調節によって、筋肉中に「グリコーゲン」を貯め込むという方法です。
「グリコーゲン」の貯蔵量を一時的に増やすことで体内のエネルギータンクを満タンにし、ガス欠にならないための準備が「グリコーゲンローディング」なのです。
グリコーゲンローディングの方法
実際にグリコーゲンローディングを行うにあたって、具体的なやり方を見ていきましょう。グリコーゲンローディングには「古典法」と、それをアレンジした「改良法」の2種類があります。
「古典法」は、1960年代に提唱され、1週間のプランで行うものです。まずは、レース・試合の7日前~4日前に体内のグリコーゲンを枯渇させるために疲労困憊になるほどの高強度のトレーニングと糖質エネルギー比40%以下の低糖質食を行い、その後レース・試合前~当日にかけては※糖質エネルギー比70%以上の高糖質食に切り替えます。この方法は、一旦体内のグリコーゲンを枯渇させることで、その後の高糖質食ではダイエット後のリバウンドの反動でグリコーゲンを一気に貯め込む方法です。しかし、この食事方法には、極端な食事制限で心身共にストレスが大きく、レース・試合前の大切な時期に疲労困憊するまでハードなトレーニングを行うことで疲れが抜けきれず、調整に失敗するリスクの高い方法でした。
そこで、1980年代からは、「改良法」が推奨されるようになってきました。「改良法」のグリコーゲンローディングでは、レース・試合7日前~4日前までは糖質エネルギー比50~60%程度の普段食べなれている食事を摂り、レース・試合3日前~当日にかけては糖質エネルギー比70%以上の高糖質食を摂ります。また、ハードなトレーニングを行う必要はなく、トレーニングの時間と強度を少しずつ低下させてグリコーゲン消費量を減らしていきます。この方法は、からだへのダメージが少なく、「古典法」とほぼ同レベルの筋グリコーゲンを蓄えられるとあって、現在は多くの持久性アスリートが取り入れています。
更に、よく鍛えられた持久性アスリートが対象となりますが、「改良法」をアレンジしたグリコーゲンローディング方として、レース・試合の2日前からのみ糖質エネルギー比70%以上の高糖質食を摂るという方法が提案されています。よく鍛えられた持久性アスリートの骨格筋はグリコーゲンを取り込む能力が高く、糖質エネルギー比70%以上の高糖質食後24時間程度で筋グリコーゲンが最大まで回復する特性を応用したもので、レース・試合直前まで普段と変わらない食事を摂ることができるため、「改良法」よりもさらに持久性アスリートの心身への負担を減らすことができると考えられます。
※糖質エネルギー比とは、摂取エネルギー全体に占める糖質由来のエネルギーの割合です。エネルギー源となる栄養素には、糖質・脂質・たんぱく質・アルコール・食物繊維があります。日本人の糖質エネルギー比は通常50~60%です。
グリコーゲンローディングで何が変わる?
グリコーゲンローディングはエネルギーを貯蓄するために行う食事法ですが、どれほどの効果があるのでしょうか。
エネルギー源であるグリコーゲンは脳や赤血球を除くほとんどの細胞に存在します。特に肝臓と筋肉に多く、通常は肝臓に約40g、筋肉には約350gを蓄えています。
一般的な日本人の糖質エネルギー比は通常50~60%ですが、これを糖質エネルギー比70%以上の高糖質食に変えてグリコーゲンローディングを行うことで、肝臓では約80g、筋肉では約600gとおおよそ倍程度のグリコーゲンを蓄えることができると言われています。
グリコーゲンローディングの注意点
グリコーゲンローディングにはプラスの効果だけでなく、マイナスの効果もあることを知っておかなければなりません。
体重増加に注意!
体内のグリコーゲンが増えると、水を一緒に蓄えられて体重が増えやすくなります。グリコーゲン1gには約3gの水分が結合するため、仮に500gのグリコーゲンを普段の量にプラスして貯蓄すると、1500gの水も一緒に増えて、合計ではおよそ2000gの体重増加となりますので、糖質源となる食べ物以外は控えて、できるだけ体重を維持するように注意してください。
グリコーゲンローディングは本番前に一度試してみましょう!
グリコーゲンローディングは普段と全く違う内容の食事。しかも、かなり栄養の偏った特殊な食事ですので、大切なレース・試合に向けてぶっつけ本番でグリコーゲンローディングを実施するのはとてもリスキーです。準備段階のトレーニング期に一度試してみて、以下のことを事前に確認することをお勧めします。
- どんなものだったら食べやすいか
- 必要量を食べきれるか
- 体重が増えていないか
- タイムはいつもより早いか
上記の内容を確認したうえで、大して効果がなかったり、かえって体調を崩して上手くいかないようであれば、いつも通りの食事でレース・試合に臨むという選択をした方が無難です。
まとめ
スリーウエルネスのある岡山でも3年ぶりに「おかやまマラソン2022」が2022年11月13日(日)に開催予定です。朝晩、練習に励んでいるランナーをよく見かけます。レースまで残り約1か月。それぞれの目標に向かって、体調管理、食事管理など、万全の調整を行い、コンディションを整えていきましょう!
なお、次月のブログ(11月2日配信予定)では、グリコーゲンローディング「改良法」における、レース・試合3日前からレース・試合当日、レース・試合後の具体的な食事について解説予定です。おかやまマラソン参加予定の方、それ以外のレースに参加予定の方も、是非、参考にしてくださいね!
スリーウエルネス健康運動指導士 尾嶋